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ある夜、寝返りを１００回、ため息を１００回ついてもまだ眠れそうにない彼女は、しかたなく立ち上がって、窓をギイっと開けました。
もうじき向こうから空が白み始めるころなのに、こんなにまっ暗い夜を眺めていると、すぐそこに夜明けが来ているとはとても思えませんでした。
「もしもこのまま、朝が来なければ…」
と、そのとき、目の前を小さな銀色の、おもちゃの飛行機が通りすぎたのです。はっとして目で追いかけた次の瞬間、彼女はもう、その飛行機の中に座っていました。
操縦なんかしなくても、飛行機はどんどん迷いなく進みます。
いくつもの街と国、この星の上に引かれたあらゆる境界線を越えながら、彼女は空の上からたくさんの人の生きている姿を目にしたのでした。世界中に生きる、自分にはまったく関係のない人たち。でも実はみんなどこか自分によく似ていて、同じようなことで悩んだり、同じものを見て笑ったりしていたのでした。
彼女は、さっきまで自分だけが特別にひとりぼっちのようで、寂しくて眠れなかったことが、急に恥ずかしく思えました。
気がつくと、飛行機は宇宙にまで来ていました。
地球という惑星は、そこに生きる様々な生命のまなざしひとつひとつがまるでサーチライトのようにまっすぐに伸びて、宇宙空間を照らしていました。
青白い無数のサーチライトが集まって、巨大な地球が輝きます。その光に包まれながら、安心したように彼女はゆっくりと目を閉じました。
次に目を開けた時には、いつもの部屋のいつものベッドの中でした。
窓をギイっと開けると、向こうの空が少しずつ白み始めたところでした。
ああ、もうすぐ明日が今日になるんだと、彼女は思いました。
大きく深呼吸したとき、あのプロペラの音がかすかに遠ざかっていくのを、聞いたような気がしました。
眠れない夜を過ごしたことがある、すべての人へ。
３０分間の夜間飛行。
坂本真綾「30minutes night flight」特設サイト”Flight
Concept"から |
